2011四月馬鹿ボツ

2011四月馬鹿ボツ
 宵はじめに花が鳴る。ふさぁふわりと宙を舞う白花が夕日色に満たされる中、花嫁は長い紗の裾を歩いてきた道筋に添わせながら、長い階段をくだっていった。
 随分と前に一緒に旅をした頃、自分の式も夕暮れの中執り行いたいと望んだ女。宣言通り夕日を纏って婚儀をあげたフィシュアを、十八になったテトは複雑な思いで見守った。
 主賓として招かれたとはいえ、階段を歩くフィシュアとの距離は遠い。
 あーぁ、と零れそうになるもどかしさを、テトは隣に立つジンをねめつけるに留めた。
 一体どこから聞き付けたのか、十六でテトが成人となって以来、都から離れていたシェラートは式が始まる直前になって姿をあらわした。
 眩しそうに目を細めて、ほとんど点にしか見えないフィシュアを眺めているシェラートに、テトは溜息をつく。
「まったく何やってるんだよ、シェラートは」
 テトを見つめたシェラートは意外そうな顔をして、穏やかに片眉をあげる。
 答えはいっこうに返っては来なかった。きまりの悪くなったテトは、いっしんにしあわせの形を身に纏っている花嫁に視線を向けたのだ。
 宵はじめに花が鳴る。ふさりふわりと、宙を舞って。花びらは決して切り取ることのできない一瞬を、この上もなくうつくしく彩っていた。

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