ご卒業おめでとうございます。

ご卒業おめでとうございます。
「あーりーまーさーん!」
道の向こうに見知った顔を見つけて、奏多は手を挙げる。ぶんぶんと、手を振るその中途、見慣れぬ有馬の格好に、奏多は首を傾げた。近くにきた有馬を彼女はまじまじとみやる。爪先からてっぺん。てっぺんから爪先へ。何度見返しても姿は変わらない。
「あれ。有馬さん、スーツですか、珍しい」
「あぁ、今日卒業式だったから」
「卒業式?」
「うん」
「え、ええぇぇぇえっ!?」
「だって魔女子さんが高二の時に大学二年だったんだから、魔女子さんが一年なら僕は四年でしょう」
だから今年で卒業と有馬は言う。
聞いてない!と叫んだ彼女に、有馬は「知ってると思ってた」としれっと答えた。
奏多は顔を歪める。放課後のバイキングケーキタイムの危機。なんてことだ。
「知らない知らない知りませんよっ!」


「・・・て、夢を見たんですよ」
奏多は底に残っているクレームブリュレのかけらをいじいじとスプーンの先で突きながら、向かいに座る相手に訴えた。
「そんなこと言われても今まだ三年だし。次が四年だね」
出会い頭になぜか奏多から花束を押し付けられた有馬は、うなだれる奏多に苦笑してコーヒーに口を付けた。
「そんな笑うことないじゃないですか」
「いや笑ってはないけど、おかしかったのはおかしかった」
奏多はきまり悪そうに窓の外の道行くひとに目を向ける。
まぁ、とこっそりもうひと笑いした有馬は、隣の椅子を陣取ってる花束の包装ををぽんぽんと叩いた。
「これは来年用と思ってもらっておくよ」

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