塔の上のおんなのこ

「ありがとう、ハイデル。またね」
 娘は春風のように荒々しく彼の頬へ唇を寄せると、踵をかえしてかけていった。耳も首もまっかにして、おさげを翻し走り去る。
「あー」
 ハイデルは呻いた。されたのだ、とそれだけしか感想がなく。
 彼にとって抱き着かれたり頬にキスをされただけで顔をあからめていた時代はもっとずっとまえにすぎさった。彼のよく知る少女がことあるごとにやわらかにその淡いろの唇を押し付けたものだから。
 塔の上の友人がきひひと笑う声が聞こえたような気がした。

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