遠い昔から、夢の中で

遠い昔から、夢の中で
おじいちゃんはテレビに映る遠い国の風景を見ながら、いちいち歓声を上げる。
「見ろ。ほら、あれだ、あれ、すごいなぁ。いつ見てもすごい。どのくらいのでかさなんだろうなぁ。なんだって言ってたか。このカーテンみたいなの」
「オーロラ」
「そうだそうだ。オーロラだ。りつは、ものしりだなぁ」
かあさん、かあさん、とおじいちゃんはホットカーペットの上に寝そべったまま台所にいるおばあちゃんを呼ぶ。
おばあちゃんは、「一体、何」と水で冷えた手をさすりさすり居間へやって来た。
「オーロラだ。きれいだろう。空から降ってくるんだぞ。あのカーテンが。寒いところしか見られないんだ」
「誰だって知ってますよ、そんなこと。見ればわかります」
「いいなぁ。今度一緒に見に行こう」
「はいはい。行けるといいですねぇ」
おばあちゃんは、私の隣に座って、私と同じようにテレビの中で緑色に揺らめくオーロラを眺める。
おじいちゃんは、いいなぁ、すごいなぁ、としきりに繰り返して。それなのに、テレビの画像が切り替わった途端、今度は万里の長城に行こうと言いだした。

「かあさん、今度あそこへ歩きに行こう」
「やぁですよ」

けれども、二人が旅行したなんて話、私はまだ一度も聞いたことがない。

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