(untitled)

(untitled)
そうとおくない未来、とこしえの闇に抱かれる予定の男。
おそらくもう輪郭もよくはとれないにじんだ色の世界にいる男。
最後に何が見たい、ととうたわたしに、男はぐしゃりと皺ごと笑んで、あぁ、と息を吐いた。
一呼吸のあと男はいった。
雪がみたい。

白く眩しく。くらく厳しくはかなくやわい。身の凍る恐ろしさをもったあらぶるうつくしい雪をみたい。
鼻先で静かにとける雪をみてみたい。


男が語ったのはすべからくわたしの語ったままで。
いやというほどに雪が年がら年中おおい尽くすわたしの村はここからずっと遠い場所にあった。
男は、雪がいい、と顎をひく。
湿気だけがやけに肌にまとわりつく、暑い夏の夜だった。

わずかに軌道を外した切っ先、けれど、ゆるやかにそして確実にその男の目を潰していった。

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